CDにまつわる雑学カトゆー家断絶・10/31 -2:35- より)

A:「収録時間どうする?一番長い交響曲の長さにしようか。てことは第9だな」
B:「イーネー!!じゃあ第9を、一番ダラダラ指揮する指揮者の演奏時間にしよう」
A:「フルトフェングラ-だな」
B:「これ以上長い演奏はないっしょ!」

ジョークとしてならそれなりに楽しめるフルトヴェングラー説ですが、どうも事実と思いこんでるっぽいですね。
CDも登場して四半世紀近くになって、デタラメが事実であるかのごとく語られ、蔓延するようになってしまいました。フルトヴェングラーの第九が基準だなんて与太がいつから吹聴されるようになったんでしょうか。第九といえばフルトヴェングラーが最高の名演とされているので、混同されたんでしょうか。
コメントでは「カラヤンがフルトヴェングラーの演奏を推薦した」旨の解説が紹介されていますが、これもウソです。CDの規格策定とフルトヴェングラーは完全に無関係です。

まず、ベートーヴェンの第九は一番長い交響曲ではありません。例えば、ギネスブックに世界最大と公認されたこともあるというブライアン(Havergal Brian, 1876-1972)の交響曲第1番“ゴシック”(1919-1927)は演奏におよそ2時間を要します。

CDの演奏時間がベートーヴェンの第九を基準にしたことは事実ですが、その際に想定されたのはフルトヴェングラーの演奏ではなく、当時ベルリン・フィルの主席指揮者を長らく務めていたヘルベルト・フォン・カラヤンによる演奏です。
カラヤンは早くからデジタル録音に強い関心を持ち、またソニーの首脳陣とも良好な関係にあり、デジタル録音によるLPレコードではなく、ディスクそのもののデジタル化を要請する手紙をソニーに宛てて送っていたほどです。

ディジタルオーディオが本当にその本領を発揮するのは、ディスクそのものがディジタル化されたものである。いつか貴社で見聞きした光を使って読み出すディジタルレコードこそディスクの最終形態である。あのデモがザルツブルクで可能ならば、世の中のレコード業者、音楽愛好家、ジャーナリストの人達に展示PRする機会を作ることにやぶさかではない
(中島平太郎「オーディオ小事典」講談社ブルーバックス B451・昭和56年2月20日 第1刷より、p.368)

1979年3月にフィリップスが提案した際の仕様は、ディスク直径11.5cm、演奏時間60分、サンプリング周波数44.3kHz、14ビット量子化(「PCM/デジタル・オーディオのすべて」誠文堂新光社・昭和55年9月25日 新装、p.170参照)というものでしたが、その後のソニーとの共同開発により、今の規格となりました。ベートーヴェンの第九が入るように12cm、75分弱とすることもソニー側の提案だったことは有名ですが、これを最初に主張したのは盛田昭夫氏か大賀典雄氏か、あるいは別の人だったのかは分かりかねます。
では、なぜベートーヴェンの第九かと言えば、長いからではなく、日本では既に誰でも知っている交響曲だったからだろうと思います。70年代には既に年末の第九演奏は日本の恒例行事になっていましたし。
IEEEの一般向け機関誌「スペクトラム」の、丸善が出していた日本版のどの号だったか、盛田昭夫氏が「ベートーヴェンの交響曲第9番は私の妻が好きだから」と米国で述べた旨の記述があったように記憶していますが、処分してしまったので確認できません。

ところで、根拠のない直感ですが、

CDのケースが左手で開けるような仕組みになっているのは、開発者が左利きだったため。

も、都市伝説ではないかと疑わしく感じます。
単に横書き欧文の書籍の開き方をそのまま踏襲しただけではないかと思うのですが。