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F1.7~F2クラス高解像50mmレンズ 撮り比べ [レンズ]

1950年代から1970年代にかけて発売されていたF1.7~F2の標準レンズのうち、測定データ上で高解像力を記録したものを撮り比べてみました。といってもマイクロフォーサーズでの撮り比べなので、イメージサークルの中心部の撮り比べということになりますが。



DR Summicron 50mm F2


F2.0


F5.6


F2.0


F5.6

このレンズは以前書いたとおりです。F2クラスの高解像な50mmレンズというと、やはりこの6群7枚構成のズミクロンがリファレンスだろうと思います。1964年製造の後期型です。

ズミクロン50mmはMマウント・Rマウントともに、レンズ構成が全く変わった新設計にモデルチェンジされるごとにアサヒカメラで計測されていますが、

1959年4月号、固定鏡胴ズミクロン 5cm F2(6群7枚)の実測値は52.0mm
1965年10月号、ズミクロンR 50mm F2(Type I、5群6枚)の実測値は52.6mm
1968年12月号、ズミクロンR 50mm F2(Type I)の異個体の実測値は52.0mm
1972年1月号、ズミルックス 50mm F1.4(5群7枚)の実測値は51.6mm
1977年8月号、ズミクロンR 50mm F2(Type II、4群6枚)の実測値は52.0mm
1978年10月号、ズミクロンM 50mm F2(5群6枚)の実測値は51.95mm
1981年1月号、ズミクロンM 50mm F2(4群6枚)の実測値は52.0mm
1991年4月号、ズミルックスR 50mm F1.4(6群7枚)の実測値は52.1mm

実焦点距離で51.6mmが計測されたズミクロンはひとつもありません。ライカ純正のMマウント標準レンズで51.6mmが計測されたのはわずかに1回、1972年1月号のズミルックス50mm F1.4のみ、ズミクロン50mmではMもRも皆無で、ズミクロン50mmはRマウントのごく初期に52.6mmが計測されたほかは、51.95~52.0mmの範囲に収まっています。

なお、本レンズではありませんが、ズミクロンR 50mm F2 Type I(いわゆる「先細ズミクロン」)は、1965年10月号で計測された個体と1968年12月号で計測された個体とでは、実焦点距離だけでなくレンズ構成図も明らかに異なっています。レンズの縁辺の切り欠き形状も異なることから、光学設計・鏡胴内部構造とも設計が異なっているものと思われます。



Auto Topcor 5.8cm F1.8


F1.8


F5.6


F1.8


F5.6

1957年に東京光学が発売した同社初の一眼レフ、トプコンRの標準レンズです。5群6枚の変形ガウスタイプですが、後群の4枚目と5枚目が接合されずに分離しているという、やや珍しいレンズ構成で、絞り機構は、撮影前にレンズに設けられたつまみを操作してチャージしておくと設定絞り値にかかわらず開放でファインダーが見られ、ただしレリーズ時に絞り込まれた後は開放に復帰しない半自動絞りです。アサヒカメラ1958年6月号のニューフェース診断室で計測されていますが、この当時のニューフェース診断室では解像力の測定限界が183本/mm、そしてこのレンズは開放時・F5.6時ともに画面中心から四隅に至るまでほとんどの測定点で測定限界を軽く超えるという成績を残し、とにかく標準レンズはすばらしいレンズといえる。と絶賛されています。平均の値は、測定限界値を超えたところは183本/mmとして算出しているため、実際の平均解像力はこの数値よりもかなり高いと思われます。

58.1mm・F1.82
F5.6に絞ったときの焦点移動量 0.07mm(後ピン方向)
歪曲収差 -1.2%(タル型)
開口効率 42%(画面対角線90%の位置)
解像力
絞りF1.8
中心部 183本/mm以上 平均 167本/mm (画面中心が最良となるようなピント面)
中心部 183本/mm以上 平均 173本/mm (画面全体が平均的に最良となるようなピント面)
“画面全体が平均的に最良となるようなピント面”は“画面中心が最良となるようなピント面”より0.06mmレンズに近い位置にある。
絞りF5.6
中心部 183本/mm以上 平均 158本/mm (画面中心が最良となるようなピント面)
中心部 142本/mm 平均 180本/mm (画面全体が平均的に最良となるようなピント面)
“画面全体が平均的に最良となるようなピント面”は“画面中心が最良となるようなピント面”より0.08mmレンズに近い位置にある。
F5.6の“画面中心が最良となるようなピント面”は開放の場合より0.04mmレンズから遠い位置にある。

1963年発売の世界初のTTL開放測光搭載機、トプコンREスーパー発売に合わせてレンズ構成を踏襲しつつ光学設計が改められたRE.Auto-Topcor 5.8cm F1.8(59.0mm・F1.83・5群6枚)では像面湾曲が大きいからか、解像限界はかなり下がり、開放時の画面中心140本/mm・平均87本/mm、F5.6時は画面中心200本/mm・平均138本/mmになっています。ところが、なぜかファンサイトなどではこの計測結果への言及が見られず、Auto Topcor 5.8cm F1.8の数値をRE.Auto-Topcor 5.8cm F1.8の解像力としているところさえあります。贔屓の引き倒しのように感じます(笑)



AUTO ROKKOR-PF 55mm F1.8


F1.8


F5.6


F1.8


F5.6

1958年に千代田光学精工が発売した同社初の35mm一眼レフ、ミノルタSR-2に合わせて登場した、5群6枚変形ガウスタイプの標準レンズです。開放時のコントラストはかなり低いのですが、にもかかわらず、しっかりと解像します。アサヒカメラ1959年2月号のニューフェース診断室では、とにかくよく写って使いよい、一眼レフ向きの万能レンズということができよう。と、非常に好意的に評価されています。しかしながら、開放時の画像を縮小すると解像力の高さどころかピント位置も判然としなくなって被写界深度が異様に深くなるのは辛いところではあります。

55.1mm・F1.84
F5.6に絞ったときの焦点移動量 0.0mm
歪曲収差 -0.7%(タル型)
開口効率 55%(画面対角線90%の位置)
解像力
絞りF1.8
中心部 224本/mm 平均 142本/mm (画面中心が最良となるようなピント面)
中心部 180本/mm 平均 152本/mm (画面全体が平均的に最良となるようなピント面)
“画面全体が平均的に最良となるようなピント面”は“画面中心が最良となるようなピント面”より0.03mmレンズに近い位置にある。
絞りF5.6
中心部 224本/mm 平均 189本/mm
“画面全体が平均的に最良となるようなピント面”は“画面中心が最良となるようなピント面”に一致している。
F5.6の“画面中心が最良となるようなピント面”は開放の場合より0.01mmレンズに近い位置にある。

オートロッコールやその後のMCロッコールの初めの頃のレンズは、ヘリコイドが固くなったり固着して動かなくなっているものが多いです。この個体も、ヘリコイドがかなり粘っています。



NIKKOR-S AUTO 5cm F2


F2.0


F5.6


F2.0


F5.6

1959年6月に登場して世界のカメラを変えてしまった名機、Nikon Fに合わせて発売された、先頭1枚目を凹レンズとした5群7枚の変形ガウスタイプの標準レンズで、当初は9枚絞り、後に6枚絞りになります。今回使用したモデルは、その後期6枚絞りモデルです。アサヒカメラ1959年9月号のニューフェース診断室のデータを見ると、F5.6時の中心部の解像力こそ測定限界を超えていますが、像面湾曲が大きいことから平均値は低く、非点収差もあまり小さくないので、開放のときのバックのボケ味は感じが悪く、そのものの形をくずしてしまう傾向がある。と指摘されています。ただ、マイクロフォーサーズで使う場合は、その高解像の中心部だけを使うことになります。

51.6mm・F2.0
F5.6に絞ったときの焦点移動量 0.0mm
歪曲収差 +0.2%(糸巻き型)
開口効率 43%(画面対角線90%の位置)
解像力
絞りF2
中心部 180本/mm 平均 112本/mm (画面中心が最良となるようなピント面)
中心部 125本/mm 平均 122本/mm (画面全体が平均的に最良となるようなピント面)
“画面全体が平均的に最良となるようなピント面”は“画面中心が最良となるようなピント面”より0.03mmレンズに近い位置にある。
絞りF5.6
中心部 280本/mm以上 平均 126本/mm (画面中心が最良となるようなピント面)
中心部 40本/mm 平均 131本/mm (画面全体が平均的に最良となるようなピント面)
“画面全体が平均的に最良となるようなピント面”は“画面中心が最良となるようなピント面”より0.08mmレンズに近い位置にある。
F5.6の“画面中心が最良となるようなピント面”は開放の場合より0.03mmレンズから遠い位置にある。

このレンズは絞りリングのマウント面側への張り出しが大きく、マウントアダプターによっては装着できない場合があります。



UV TOPCOR 50mm F2


F2.0


F5.6


F2.0


F5.6

1969年10月発売のトプコン・ユニレックス用の4群6枚のオーソドックスなガウスタイプの標準レンズで、トリウムガラスを採用した放射能レンズということは以前にも書いたとおりです。そこで言及した「50mmF2クラスレンズの解像力」の表ですが、この表には当然ながら記事本文もあって、小倉磐夫氏はその記事中でこのレンズを特に取り上げて次のように記しています。
国産一眼レフ用のF2レンズというのは全般に低調だった。例外はトプコンユニレックスというカメラに付いていたUVトプコールで,カメラ自体有名でなく記憶している人も少ないかと思うが,このレンズはまさにズミクロン級の結果を残している。F2級のトプコールは繰返し現れているが,このユニレックスだけが抜群に良くて,あとはさほど良くなかった。

50.1mm・F2.08
歪曲収差 -1.4%(タル型)
解像力
絞りF2
中心部 224本/mm 平均 132本/mm (画面中心が最良となるようなピント面)
中心部 180本/mm 平均 136本/mm (画面全体が平均的に最良となるようなピント面)
絞りF5.6
中心部 250本/mm 平均 131本/mm (画面中心が最良となるようなピント面)
中心部 224本/mm 平均 179本/mm (画面全体が平均的に最良となるようなピント面)

このレンズの絞り羽根は5枚ですが、微妙に曲線が付けられています。球面収差は開放域で完全補正・中間帯での補正不足側への膨らみはF2.8のあたりで最大-0.12mm、像面湾曲も非点収差も小さく、これら収差の補正状態は2015年5月発売のキヤノンEF50mm F1.8 STMに酷似、ないしはEF50mm F1.8 STMよりやや優れているように見えます。



FD 50mm F1.8


F1.8


F5.6


F1.8


F5.6

1971年3月1日発売のキヤノンF-1とFTbから採用されたFDマウント用の廉価な標準レンズで、オーソドックスな4群6枚のガウスタイプです。F-1及びFTb発売に合わせて用意された標準レンズのうち、FD 55mm F1.2、FD 50mm F1.4、FD 50mm F1.8の3本の光学設計は、それ以前の絞り込み測光のFLマウント用標準レンズ、FL 55mm F1.2、FL 50mm F1.4Ⅱ、FL 50mm F1.8Ⅱと全く同じです。このレンズは71年3月発売のⅠ型と、71年11月発売のⅡ型があるとされていますが、価格も含めてカタログ的なスペックに違いがなく、光学設計に違いがあるのかどうかも不明です。面白いことに、アサヒカメラ1971年5月号ニューフェース診断室で計測された際のⅠ型の収差図を見ると、1969年10月発売の前群交換式一眼レフ、キヤノンEX-EEのEX 50mm F1.8と同一製品の生産ロット違いではないかと疑いたくなるほどに酷似していて、レンズ構成図も違いは微妙で非常に小さく、解像力の数値もEX 50mm F1.8より開放時の数値がわずかに低い程度でかなり近いデータです。キヤノンカメラミュージアムでは質量305gとされているのに対し、実測では334gありました。
(2018年7月24日に不確実な記述を削除、2021年7月4日に若干の補筆を行いました。)

51.6mm・F1.84
F5.6に絞ったときの焦点移動量 0.01mm(後ピン)
歪曲収差 -1.4%(タル型)
開口効率 37%(画面対角線90%の位置)
解像力
絞りF1.8
中心部 180本/mm 平均 146本/mm
“画面全体が平均的に最良となるようなピント面”は“画面中心が最良となるようなピント面”に一致している。
絞りF5.6
中心部 224本/mm 平均 157本/mm (画面中心が最良となるようなピント面)
中心部 180本/mm 平均 184本/mm (画面全体が平均的に最良となるようなピント面)
“画面全体が平均的に最良となるようなピント面”は“画面中心が最良となるようなピント面”より0.08mmレンズに近い位置にある。
F5.6の“画面中心が最良となるようなピント面”は開放の場合より0.03mmレンズから遠い位置にある。

FDマウントは東京光学の特許権使用許諾を得て、絞り込み測光のFLマウントをTTL開放測光化したマウントで、技術開発力の高さに他社も一目置いていたキヤノンがトプコンに屈して4千万円と言われるライセンス料を支払ったことに当時の国内カメラ業界はパニックのような状況に陥ったらしく、国内カメラメーカーの多くがその後を追って雪崩を打つようにトプコンの軍門に降る一方、日本光学は“カニの爪のガチャガチャ”を固守して時間を稼いでライセンス料を大幅に値切る作戦に出ました。

FD 50mm F1.8も、FD 50mm F1.4も、銘板にコーティング表記がなくレンズ先端のフィルター枠が銀色に光り輝くモデルは中古市場で見かける機会が意外に少ないように感じます。キヤノンの一眼レフへの参入は1959年5月と国内では比較的早い方だったのですが、そのキヤノンフレックスは底面のトリガーレバーによるフィルム巻き上げなどという中二病をこじらせたような飛び道具を採用してしまって大不評、またその後に自動絞り機構を見直したFLマウントはスーパーキヤノマチックRマウントと物理的な寸法や形状が同じなのにレンズの互換性を失ってまたも大不評で、キヤノンを見限った顧客が大量に他社製品へ流出、その一方で1961年に自動露出のキヤノネットが大ヒットしたことで、業界内ではキヤノンは高級カメラから手を引くらしいという観測が流れるなど、かつての「日本を代表する高級カメラメーカー」とする評価が一変し、70年代が目前になる頃にはキヤノンは「シロウト向けのバカチョンカメラメーカー」と見られるようになり、35mm一眼レフの市場シェアも、国内ではアサヒペンタックスが、最大市場の米国ではミノルタが頂点に立ち、キヤノンの存在感は希薄になる一方でした。そしてFDマウント採用でキヤノンはまたマウントを変えたのかとあきれられ、あるいはF-1を指してバカチョンカメラメーカーが無理な背伸びをしていると冷笑され、数少なくなったキヤノンの固定ファンの需要が一巡した時点で売上がばったり止まってしまいました。そのため、初期のFDレンズは市場に出た数が少ないようです。キヤノンはその後、起死回生を賭して前代未聞の一大奇策に打って出ることになります。



<New> NIKKOR 50mm F2


F2.0


F5.6


F2.0


F5.6

NIKKOR-S AUTO 5cm F2の後を受けて1964年に登場した4群6枚構成のNIKKOR-H Auto 50mm F2に改良が重ねられて1974年11月に発売されたニューニッコールモデルで、最短撮影距離が60cmから45cmに短縮されています。以下に示すのはアサヒカメラ1968年1月号のニューフェース診断室に掲載されたNIKKOR-H Auto 50mm F2のデータで、<New> NIKKOR 50mm F2については公表された実測データがありません。

51.6mm・F2.0
F5.6に絞ったときの焦点移動量 0.02mm(後ピン)
歪曲収差 -1.6%(タル型)
開口効率 48%(画面対角線90%の位置)
解像力
絞りF2
中心部 180本/mm 平均 111本/mm (画面中心が最良となるようなピント面)
中心部 160本/mm 平均 128本/mm (画面全体が平均的に最良となるようなピント面)
“画面全体が平均的に最良となるようなピント面”は“画面中心が最良となるようなピント面”より0.03mmレンズに近い位置にある。
絞りF5.6
中心部 224本/mm 平均 167本/mm
“画面全体が平均的に最良となるようなピント面”は“画面中心が最良となるようなピント面”に一致している。
F5.6の“画面中心が最良となるようなピント面”は開放の場合より0.03mmレンズに近い位置にある。

この同時代のNIKKOR-S Auto 50mm F1.4の測定データを追跡すると、実焦点距離・像面湾曲・非点収差・歪曲収差が頻繁に変わり、硝材に変更があった際にはレンズ構成図が激変、解像力の数値もF5.6時の解像力がファーストロットにくらべて後のロットではやや下がり、球面収差も収差量こそほぼ保たれながらもカーブの形状に若干の違いが生じるなど、頻繁に光学設計が見直され手を入れられて大きな変更が継続的に加え続けられていたことが分かります。従って、このレンズもNIKKOR-H Auto 50mm F2から引き継がれているのは球面収差量ぐらいではないかと想像します。



SMC PENTAX-M 50mm F1.7


F1.7


F5.6


F1.7


F5.6

アサヒペンタックスのレンズは、マウントがKマウント化された際に新設計で投入されたレンズは広角レンズに偏り、標準レンズはタクマーの設計を引き継ぎました。標準レンズの設計が一新されるのは、オリンパスOMシステムに対抗して小型軽量化したペンタックスMシリーズの発売時、1976年になります。SMC PENTAX-M 50mm F1.7は1976年12月に発売された5群6枚変形ガウスタイプの標準レンズです。

51.6mm・F1.71
F5.6に絞ったときの焦点移動量 0.02mm(後ピン)
歪曲収差 -1.1%(タル型)
開口効率 41%(画面対角線90%の位置)
カラーコントリビューション指数 9/0/2
解像力
絞りF1.7
中心部 180本/mm 平均 108本/mm (画面中心が最良となるようなピント面)
中心部 160本/mm 平均 114本/mm (画面全体が平均的に最良となるようなピント面)
“画面全体が平均的に最良となるようなピント面”は“画面中心が最良となるようなピント面”より0.04mmレンズに近い位置にある。
絞りF5.6
中心部 224本/mm 平均 176本/mm
“画面全体が平均的に最良となるようなピント面”は“画面中心が最良となるようなピント面”に一致する。

球面収差はほぼ完全補正、像面湾曲・非点収差も小さく、ペンタックスの標準レンズとしては例外的な高解像力を有します。

参考までに、アサヒカメラ1999年12月号で計測された現行製品、SMC PENTAX-FA 43mm F1.9 Limited(6群7枚)の数値を上げると、開放時の画面中心125本/mm・平均67本/mm、F5.6時の画面中心180本/mm・平均92本/mmとなっています。「リミテッド」なのに、限りなく長く生産販売が続いてますね(笑)



XR RIKENON 50mm F2


F2.0


F5.6


F2.0


F5.6

このレンズを「高解像力レンズ」に含めていいのかどうか若干の躊躇はありましたが、「和製ズミクロン」として有名なレンズなので加えてみました。

51.4mm・F2.03
F5.6に絞ったときの焦点移動量 記載なし
歪曲収差 -1.3%(タル型)
開口効率 39%(画面対角線90%の位置)
カラーコントリビューション指数 5/0/2
解像力
絞りF2
中心部 180本/mm 平均 119本/mm
“画面全体が平均的に最良となるようなピント面”は“画面中心が最良となるようなピント面”に一致する。
絞りF5.6
中心部 200本/mm 平均 123本/mm (画面中心が最良となるようなピント面)
中心部 200本/mm 平均 156本/mm (画面全体が平均的に最良となるようなピント面)
“画面全体が平均的に最良となるようなピント面”は“画面中心が最良となるようなピント面”より0.08mmレンズに近い位置にある。
F5.6の“画面中心が最良となるようなピント面”は開放の場合より0.05mmレンズから遠い位置にある。

星セント・ルイスをCMに起用して1978年9月に発売、リコーのサンキュッパで一世を風靡したリコーXR500のキットレンズで、5群6枚変形ガウスタイプです。この当時、各社とも低価格一眼レフを市場に投入して「5万円戦争」と言われていた時代ですが、それら各社製品よりさらに大幅に安い、カメラボディ・レンズ・ケースのセットで39,800円というコンパクトカメラ並みの価格は驚きをもって迎えられました。当然、“安かろう悪かろう”ではないかという疑念を持つ向きもあったわけですが、実際には先に発売されていた上位機種とのパーツの共通化や大量宣伝・大量販売によるスケールメリットによって実現した低価格で、品質を犠牲にしていなかったことも特筆に値するかと思います。当時の雑誌広告を見ると、50mm F1.4やF1.7はレンズ単体の価格が記されているのに、このF2だけは単体の価格が記されていない広告が少なからずあり、メーカーがこの50mm F2レンズのみの単体販売を避けようとしていたことが伺われます。実際、このレンズの9,000円という価格は出血サービスではないかと当時言われ、カメラとのセット販売で利益を出すビジネスモデルだったと思われます。

XR500とXR RIKENON 50mm F2はアサヒカメラ1978年12月号のニューフェース診断室で計測されたのですが、その2ヶ月前の1978年10月号ではライカM4-2と5群6枚構成のズミクロンM50mm F2がテストされていました。その結果、9,000円のXRリケノンと12万円のズミクロンMの解像力が開放・F5.6時ともかなり近い数値だったことから、このXRリケノンはいつしか「和製ズミクロン」と呼ばれるようになりました。しかしMTF曲線の図を見ると、XRリケノン50mm F25群6枚のズミクロンMとは異なり、日本的な解像重視設計によって球面収差を過剰補正としていることから開放時のコントラストは低くて勝負にならないのですが、この当時はMTF曲線の見方を心得ている人がプロ写真家にすらまだ少なく、古くから馴染みのある解像力の単純な数値の近さに多くの人の目が奪われることになったわけです。とはいえ、この解像力の数値は1970年代の35mm判標準レンズとしてはありきたりな数値で、価格に注目しないのであれば特記に値するほどのものではありません(1990年代のレンズと比べると極めて高い解像力ではあるのですが)。ただし、このXRリケノンのF5.6でのMTF曲線は見事なもので、10本/mm・30本/mmともに放射・同心のコントラスト曲線が画面中央から四隅までほぼ完全に一致しており、それぞれ90%以上及び75~70%の高さを画面隅近くまで維持してフラットに伸びています。大変にコストパフォーマンスに優れたレンズです。が、現役製品当時の価格を超える中古価格を付けているものにあえて手を出す価値があるかというと、そこはちょっと微妙だと思います(笑)

「和製ズミクロン」の通り名だけをことさらに取り上げて単純に「ライカテイストが味わえる」などと煽るプロライターがいますが、あまりに勉強不足が過ぎます。収差補正はライカの多くのレンズとは大きく異なるので、このレンズにライカ的な描写を期待するべきではありません。また、ネット上ではこのレンズについて、上野千鶴子著・朝日ソノラマ刊『私のカメラテスト』に「ドイツレンズのような描写」と書かれているとする風説が見られますが、その『私のカメラテスト』でこのレンズを取り上げている掲載ページp.137~140に、そのような記述は全くありません。

XR RIKENON 50mm F2の発売以降、国内競合他社はF2クラスの標準レンズに値段の安さ以外に取り柄のない安物レンズを投入することができなくなりました。その意味で、このレンズはきわめて大きな影響力を発揮したレンズです。

この初代のXR RIKENON 50mm F2は質量のバラツキが非常に大きく、メーカー公称値は190gですが、ニューフェース診断室での実測値は204g、また、今回用いた個体は210gありました。

なお、アサヒカメラ1981年6月号にXR RIKENON ZOOM 35-70mm F3.5 MACROについて、
従来のリケノン標準レンズと大きく変わり、紫外線を通さないタイプとなった。
という記述があることから、そのリケノンズームより前の標準レンズである、このXR RIKENON 50mm F2などは紫外線をかなり良く透過していたのではないかと思われます。



OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ(ISO 200, 絞り優先AE)
OLYMPUS Capture

LEITZ WETZLAR SUMMICRON 50mm F2 (Dual Range, 1964)
東京光学 Auto Topcor 5.8cm F1.8
千代田光学精工 AUTO ROKKOR-PF 55mm F1.8
日本光学 NIKKOR-S AUTO 5cm F2
東京光学 UV TOPCOR 50mm F2
日本光学 <New> NIKKOR 50mm F2
Canon FD 50mm F1.8(Ⅱ)
旭光学 SMC PENTAX-M 50mm F1.7
リコー XR RIKENON 50mm F2

GITZO CREMAILLERE2 G212
Manfrotto 410

ALTER 1/8scale "ALVIS & LAVIE BY LASTEXILE"

Auto Topcor 5.8cm F1.8 (F5.6)



参考資料(順不同):

新装版 現代のカメラとレンズ技術(小倉磐夫・写真工業出版社・ISBN4-87956-043-X C3072 P3000E・1995年10月17日 新装版第1刷)

クラシックカメラ選書-17 [復刻]明るい暗箱(荒川龍彦・朝日ソノラマ・ISBN4-257-12027-4 C0072 ¥1700E・2000年6月15日 第1刷)

クラシックカメラ選書-22 レンズテスト[第1集](中川治平,深堀和良・朝日ソノラマ・ISBN4-257-12032-0 C0072 ¥1800E・2001年11月30日 第1刷)

クラシックカメラ選書-23 レンズテスト[第2集](中川治平,深堀和良・朝日ソノラマ・ISBN4-257-12033-9 C0072 ¥1800E・2001年11月30日 第1刷)

現代カメラ新書 No.64 私のカメラテスト(上野千鶴子・朝日ソノラマ・0272-018064-0049・1979年12月20日 初版)

カメラドクター・シリーズ〔第2集〕 話題のカメラ診断室(朝日ソノラマ・0072-003022-0049・1974年8月24日発行)

カメラドクター・シリーズ5 カメラ診断室(朝日ソノラマ・ISBN4-257-03173-5 C0072 ¥1600E・1983年11月30日発行)

カメラドクター・シリーズ6 カメラ診断室(朝日ソノラマ・ISBN4-257-03174-3 C0072 ¥1600E・1983年12月31日発行)

アサヒカメラ ニューフェース診断室 ニコンの黄金時代① SP~F3「診断室」再録(朝日新聞社・ISBN4-02-272128-6 C9472 ¥1800E・2000年1月1日発行)

アサヒカメラ ニューフェース診断室 ニコンの黄金時代② F4~F100「診断室」再録(朝日新聞社・ISBN4-02-272129-4 C9472 ¥1800E・2000年1月1日発行)

アサヒカメラ ニューフェース診断室 ライカの20世紀(朝日新聞社・ISBN4-02-272132-4 C9472 ¥1800E・2000年7月1日発行)

アサヒカメラ ニューフェース診断室 キヤノンの軌跡(朝日新聞社・ISBN4-02-272139-1 C9472 ¥1800E・2000年10月1日発行)

アサヒカメラ ニューフェース診断室 ペンタックスの軌跡(朝日新聞社・ISBN4-02-272140-5 C9472 ¥1800E・2000年12月1日発行)

アサヒカメラ 1979年4月増刊号 35㍉一眼レフのすべて(朝日新聞社・雑誌01404-4・1979年4月5日発行)

アサヒカメラ 2015年10月号(朝日新聞社・雑誌01403-10・4910014031050 00907・2015年9月18日発売・2015年10月20日発行)

カメラ毎日別冊 '71 カメラ・レンズ白書 優秀カメラ・レンズはどれか(千葉大学工学部 田村稔研究室 検討グループ・毎日新聞社・1971年5月15日発行)






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ワンモア

うーん、レンズの違いでこうも差が出るのですね。
奥が深い・・・・。それにしても被写体が可愛くて和みます。
by ワンモア (2016-08-03 00:40) 

(た)

ワンモアさん、こちらにもありがとうございます♪

>レンズの違いでこうも差が出るのですね。
意外に大きな差が出ましたね。撮った本人もちょっとびっくりしてます(^^;
DRズミクロンはやっぱり別格のような気がします。

>それにしても被写体が可愛くて和みます。
元作品のアニメでも可愛かった二人ですが、このフィギュアも可愛いですよね(^^)
by (た) (2016-08-03 00:59) 

水銀

(た)さん、こんにちわ

大変面白く読ませていただきました、自分だったら思いついて企画しても途中で心折れて止めてます(^^;
その前によくこんなに持っていたなと思いましたw

ハイスピードな標準レンズは話題にされることはよくありますが、このクラスで纏めての企画は少ないので面白いですね(^^)
中にはf/1.4クラスを持っていれば、f/2クラスは要らないとか寂しい事を仰る方もいますが。個性派揃いでしかも比較的に安価に揃えられるこのクラスを愉しまない手はないと思います♪
by 水銀 (2016-08-03 02:48) 

(た)

水銀さん、こんにちは。ありがとうございます♪
先ほど、少し本文を書き加えました。

>大変面白く読ませていただきました、
ありがとうございます!

>思いついて企画しても途中で心折れて止めてます(^^;
けっこう手間がかかりますからね(^^;

>その前によくこんなに持っていたなと思いましたw
このクラスはとても安く入手できますから、ニューフェース診断室のバックナンバーでデータを見ながら揃えてみましたw

>ハイスピードな標準レンズは話題にされることはよくありますが、
今はボケ量が命みたいな時代ですから、どうしてもハイスピードレンズが注目されますね。

>このクラスで纏めての企画は少ないので面白いですね(^^)
このクラスの中古は非常に安く手に入るにもかかわらず(ズミクロンはそうも行きませんけれどw)、解像力無双なレンズがひしめいていて、おっしゃるとおり、とても面白いと思います。
これがF1.4クラスだと、お値段が一桁上がってくる割に高解像レンズはオリンパス・キヤノン・ミノルタぐらいしかなくてイマイチ面白くないですし、F1.2ともなると一本あたり5万6万7万8万円の世界なのに高解像レンズはオリンパスしかなくてまとめようがないんですよねw

>中にはf/1.4クラスを持っていれば、f/2クラスは要らないとか寂しい事を仰る方もいますが。
キヤノンなら当てはまりそうな気が(^^;;

>個性派揃いでしかも比較的に安価に揃えられるこのクラスを愉しまない手はないと思います♪
本当にそう思います。
実売価格の縛りが厳しいカテゴリーなので、その当時のメーカーの開発者や営業サイドが何を重視していたかという違いが如実に出て、とても興味深くて面白い世界だと思います。
by (た) (2016-08-03 12:53) 

Yossy

(た)さんこんばんは^^

標準レンズ好きな自分にはとても面白い企画です♪
各社の意気込みが伝わってくる様でした^^

やはりズミクロンは素晴らしいですね~
開放でもピントが合わせ易いレンズは、拡大機能が無い
ニコワンだと重宝します(苦笑)
でも絞るとピンが変わる物も多いですが…^^;

それぞれのレンズの癖が分かり易かったです♪
自分好みな物を見つけるのも楽しいですよね^^
次は是非f1.4シリーズをお願いしますw

記事の作成お疲れさまでした^^
by Yossy (2016-08-04 00:01) 

(た)

Yossyさん、おはようございます。ありがとうございます♪

>標準レンズ好きな自分にはとても面白い企画です♪
標準レンズ、お好きですか(^^)
気に入って頂けたようで、嬉しいです♪

>各社の意気込みが伝わってくる様でした^^
意外に違いがあって、面白いですよね。

>やはりズミクロンは素晴らしいですね~
開放から安定していて、格の違いを見せつけられたような気がしました。

>拡大機能が無いニコワンだと重宝します(苦笑)
拡大機能がないのは、なかなか辛いですね(^^;
ピント移動のないレンズは少ないですし、絞るとピントの山が掴みにくくなるので、拡大機能はほしいですね。

>それぞれのレンズの癖が分かり易かったです♪
やってみる前には、このクラスなら開放時でもピントの合ったところの違いはあまりないかと思っていたんですが、意外に大きな違いがありますね。
参考にして頂けて、嬉しいです♪

>次は是非f1.4シリーズをお願いしますw
そうですね、それもいつかやってみたいですね(^^;
お盆が明けてから、ちょっと考えてみます。

>記事の作成お疲れさまでした^^
ありがとうございます!
by (た) (2016-08-04 07:37) 

bpd1teikichi_satoh

(た)さんおはようございます!爺もLeica Summicron M 35mm F2.0 Asp.を新品で苦労して購入してその性能の高さに魅せられ、Leicaは高くて手を出せないと想いつつM 50mm,R 50mm(ROM),R 35mm,T 23mm F2.0 ASPH....ライカのレンズ沼に徐々に嵌まり込みつつあります。
然し、普通はNIKKOR,Zuiko等の愛好者ですが、、、

これからもレンズの比較検討テストを宜しくお願い致します。
by bpd1teikichi_satoh (2016-08-06 09:47) 

(た)

bpd1teikichi_satohさん、こんにちは。ありがとうございます!

>ライカのレンズ沼に徐々に嵌まり込みつつあります。
比べてみるまで、ここまでの差があるとは正直思っていませんでした。
ヤシコンのプラナーやテッサーも90年代に入って非点収差の補正をライカ流に改めてますし、それだけライカは官能的な画質評価を大切にしてきたということなんだろうと思います。

>普通はNIKKOR,Zuiko等の愛好者ですが、、、
ニッコールやズイコーも良いレンズですよね。
今回、50mmレンズに限定したので焦点距離が離れていて出番をあげられなかったんですが、データを見るとペンF用の38mm F1.8がすごく高解像で球面収差も小さいんですよね。フィルム時代だと印画への引き伸ばしを考慮して35mmフルサイズ相当に換算するには解像力は0.7倍・収差は1.4倍にすることになるんですが、今のデジタルカメラの同一のボディにマウントアダプター経由で使うとなると換算の必要がなくなるので、互角以上に戦えそうです。

>これからもレンズの比較検討テストを宜しくお願い致します。
できる範囲で、またやってみようと思います。ただ…ズミルックスは古いモデルの中古もかなりするので入手してないんですよね(^^;
by (た) (2016-08-06 11:57) 

血染羊毛

一目でわかるAlter製ですね(?)

参考になります
中心の性能がいいレンズはm4/3と相性がいいですね
比べてみるとズミクロンがリファレンスというのが分かる気がします
今は後から調整できますが、数字に出ないコントラスト重視というの当時あまり受けなかったのでしょうか

by 血染羊毛 (2016-08-07 22:19) 

(た)

血染羊毛さん、ありがとうございます♪

>一目でわかるAlter製ですね(?)
ですねw
仕上げも塗装も別次元なので見ると分かりますよね。あと、作品やキャラの選択とか(^^;

>参考になります
そう言って頂けて嬉しいです。ありがとうございます。

>中心の性能がいいレンズはm4/3と相性がいいですね
僕もそう思います。
オールドレンズは解像力が低いと単純に信じている人が多いんですが、実は違うんですよね。

>比べてみるとズミクロンがリファレンスというのが分かる気がします
お金のかけ方が違うんだろうなという気がしました。
ズミクロンも当時の評価に開放ではハロがあるとあったんですが、比べるとレベルが違いますね。日本の一眼レフ用交換レンズはコントラストの高さ・ハロの少なさに追いつくのにずいぶん時間がかかってますし、解像力では結局追いつけませんでしたね。

>数字に出ないコントラスト重視というの当時あまり受けなかったのでしょうか
おそらく、撮影用というよりもファインダーの明るさを確保するための開放絞りだったんだろうと思います。レンズ交換式のカメラは分かっている人が使うものという位置づけだったんじゃないかという感じも受けます。ボケ量に対するこだわりも、今よりかなり少ないように見受けられます。

ニューフェース診断室が開放のコントラストや球面収差の過剰補正を問題にして言及し始めるのが、小穴純氏が担当を引退されてからなんですよね。それ以前は、過剰補正による描写を大きく問題にしているようには見えませんし、むしろ、被写界深度が深いのでポートレートに使いやすいなんていう積極的な評価も見えたりします。1970年前後を境に、日本人のレンズの描写に対する好みが変わってきていたようにも見えます。
それと、最近の多くのオールドレンズマニアの好みにも言えますが、過剰補正傾向による芯のあるソフトフォーカス的な描写というのが、どうも日本人の琴線をかなり刺激するみたいですね。
by (た) (2016-08-08 09:58) 

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