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アトムレンズ [レンズ]

そもそものきっかけはヨッシーハイムさんが先日上げられたブログエントリー、アトムなレンズ「Super Takumar 55mm f1.8」でした。

酸化トリウムを含有させた高屈折率レンズ、いわゆる「アトムレンズ」(放射能レンズ・トリウムレンズ)の存在自体は放射能ズミクロンのことなど以前から聞いていましたし、あの3.11の大震災後、東電の福島原発の事故で放射能の影響への関心が高まった当時に少し話題になっていたのも見てはいましたが、ヨッシーハイムさんが手に入れられたのを見て、僕もちょっと欲しくなったのです。

そこで、まず放射線測定器を…といっても精度の高いものはそれなりに値段もするので、家庭用の安価で手軽なものをということで、エステーのエアカウンターを購入しました。エステー・エアカウンターはガンマ線をシリコンフォトダイオードで検出するもので、測定には5分間を要し、誤差は±20%と表記されています。自室内で計測したところ、0.09~0.10µSv/hという値を得ました。

それから通販でSuper-Takumar 55mm F1.8を探して発注。そうして入手した個体はシリアルナンバー4382021と、放射能レンズのページで実測されているもののひとつにナンバーが近いことから、これは結構いくかもしれないと予想しながら測定してみました。その結果は、前玉ほぼ密着で0.38µSv/h、後玉から1cmほどのところで2.64µSv/hでした。

さて、うちにはもうひとつ黄変したレンズがあります。2013年の梅雨入り頃に安く手に入れたミノルタ「鷹の目ロッコール」58mm F1.2です。このレンズも黄変を生じている個体が多いことで有名ですが、黄変の原因は巷間に曰く、アクロマチックコーティングと硝材の相性が悪いためInternet Archive)と言われていて、僕が購入した店でもそう説明されていました。でもまあせっかく測定器を買ったことだし、話の種にと思って測定してみたら、あらびっくり。MC ROKKOR-PG 58mm F1.2 前期型(金属鏡胴・梅鉢型) シリアルナンバー2559673が、前玉ほぼ密着で1.05µSv/h、後玉ほぼ密着で6.53µSv/hというかなり高い値を示しました。このレンズに採用された新種の硝材とはトリウムレンズだったのですね。つまり、黄変の原因はアクロマチックコーティングではなく、トリウムレンズの放射線によるブラウニング現象と考えた方がよさそうです。

ググってみたら、やはり海外の英語ページの方が詳しいようです。線量こそ記載されていないものの、アトムレンズを網羅的に一覧化したページがありました。

Radioactive lenses - Camerapedia
http://camerapedia.wikia.com/wiki/Radioactive_lenses

なお、MC ROKKOR-PG 58mm F1.2ですが、上記Radioactive lensesにその後に追記されたリンク https://imgur.com/8RPn7W6 の計測値(画像)によると、シリアルナンバー2567714以前はアトムレンズ、シリアルナンバー2571225以降は非アトムレンズとのことで、この間に硝材成分が変わったものと思われます(2019年6月1日追記)。


(以下、2014年5月4日まで、及び2015年7月5日追記・編集)

上記のCamerapediaのページにはありませんが、トリウムレンズ?:OMファンの掲示板:@niftyレンタル掲示板:@niftyによるとオリンパス OM-SYSTEM ZUIKO MC 35mm F2の銀縁タイプが、身近な放射線 - オールドレンズの世界-によるとハーフサイズ一眼レフのオリンパスPEN F用のG.Zuiko Auto-S 40mm F1.4がアトムレンズとのことです。

同じくオリンパスPEN F用のF.Zuiko Auto-S 38mm F1.8のシリアルナンバー36万4千台の個体を2015年7月5日に入手したので計測してみたところ、前玉側で0.21µSv/h・後玉側で1.10µSv/hのガンマ線を検出しました。F.Zuiko Auto-S 38mm F1.8は、アサヒカメラ1964年1月号のニューフェース診断室でテストされた際の収差や解像力の実測データが朝日ソノラマ『クラシックカメラ選書22・レンズテスト[第1集]』のp.80~81に掲載されているのですが、その球面収差が非常に小さいことから、トリウムレンズではないかという疑いを持っていました。このたび計測してみて、トリウムレンズであることがはっきりしました。

また、上記CamerapediaにはNikkor 35mm f/1.4 (early variant with thorium glass elements)という記述が見えますが、これはNIKKOR-N Auto 35mm F1.4及びNIKKOR-N・C Auto 35mm F1.4で、Nikon Lens Serial NosによるとNew NIKKOR 35mm F1.4以降にはトリウムレンズは使われていないとのことです。これはニッコール千夜一夜物語 第二十七夜: ~もっとも明るい35mmレンズ~ Ai Nikkor 35mm F1.4S実は鏡筒デザインがNEW-Nikkorに変わる時、光学系に変更が加えられている。レンズの基本構成は変わっていないが、綱島輝義氏の手によってガラス材料やレンズの曲率が変更され、開放時の性能を向上させている。という記述とも符合します。NIKKOR-N Auto 35mm F1.4のガンマ線量は徒然観音うらのしっぽなさん放射する黄色い奴で実測されています。NIKKOR-N・C Auto 35mm F1.4については僕が2014年の4月下旬に入手したNo,374784の個体を実測したところ、前玉ほぼ密着で2.98µSv/h・後玉ほぼ密着で4.59µSv/hという値を得ました。

なお、Camerapediaの一覧にオールドレンズではなく現行製品が、中国・中一光学のソニーEマウント用50mm F0.95のレンズが追加記載されました。そちらについて、新たにエントリーを立てて僕の所感を述べてみました


(以下、2014年9月22日・同12月28日追記)
アクセス解析を見たところ、「ニコン アトムレンズ」というキーワードで検索してこのエントリーにおいでになった方がいらっしゃるようなので、検索で見つけたものも含めて、ニコンのアトムレンズ及びアトムレンズと言われているものを以下に挙げておきます。

W-NIKKOR 3.5cm F1.8([mixi] ノンライツRF友の会 | ノンライツ・アトムレンズより)
NIKKOR-N Auto 35mm F1.4
NIKKOR-N·C Auto 35mm F1.4
Ultra-Micro-NIKKOR 135mm F4(ニコン産業用・特殊用レンズの一覧 - Wikipediaを参照)

ニッコールについては、根拠薄弱な推測のみで「ニコンレンズにトリウム入りレンズがない、らしい。」(Internet Archive)とするウェブページが存在し、検索すると非常に高い位置でヒットしていたうえに、そのページをソースとしているブログ等も複数存在しているようですが、ニコンに放射能レンズがないとするのは全くのデタラメです。



(以下、2017年12月24・27日、2018年2月2日、2019年1月15日・4月30日追記)
放射能レンズとして知られている中で、これまでに僕が計測できたもののうち、上記の記事本文中でレンズ自体または放射線量に言及していないものについて、以下にガンマ線量を記しておきます。なお、勝手ながらシリアルナンバーの下二桁を伏せさせて頂きました。

UV TOPCOR 50mm F2 No.680659xx
 前玉側 0.39 μSv/h 後玉側 1.79 μSv/h

RE GN TOPCOR M 50mm F1.4 No.157026xx
 前玉側 1.33 μSv/h 後玉側 5.90 μSv/h

G.Zuiko Auto-S 40mm F1.4 No.1308xx (ハーフサイズ一眼レフ PEN F/FT/FV用)
 前玉側 0.27 μSv/h 後玉側 2.13 μSv/h

OM-SYSTEM G.ZUIKO AUTO-S 50mm F1.4(前期型・銀枠) No.156670
 前玉側 6.55 μSv/h 後玉側 0.83 μSv/h

OM-SYSTEM G.ZUIKO AUTO-S 50mm F1.4(前期型・銀枠) No.5092xx
 前玉側・後玉側とも検出なし(バックグラウンド値に同じ)

OM-SYSTEM G.ZUIKO AUTO-S 55mm F1.2(前期型・銀枠) No.1247xx
 前玉側 13.50 μSv/h 後玉側 3.00 μSv/h

OM-SYSTEM ZUIKO MC MACRO 20mm F3.5 No.3003xx
 前玉側・後玉側とも検出なし(バックグラウンド値に同じ)

Super-Multi-Coated TAKUMAR 50mm F1.4 No.58293xx
 前玉側 1.82 μSv/h 後玉側 15.94 μSv/h

EBC FUJINON 50mm F1.4(前期型) No.1460xx
 前玉側 2.68 μSv/h 後玉側 24.71 μSv/h

KONICA HEXANON AR 50mm F1.4(最小絞りF16・AEポジション緑色) No.76469xx
 前玉側 0.43 μSv/h 後玉側 4.31 μSv/h

Canon SUPER-CANOMATIC LENS R 50mm F1.8(後期型) No.891xx
 前玉側 0.15 μSv/h 後玉側 1.41 μSv/h

YASHICA AUTO YASHINON-DX 50mm F1.4 No.54213xx
 前玉側・後玉側とも検出なし(バックグラウンド値に同じ)

CORFIELD LUMAX 50mm F1.9 No.32029xx
 前玉側 0.13 μSv/h 後玉側 0.25 μSv/h





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足立sunny

う〜んと、すごい結果が出ましたね。
58mmF1.2というのは脅威のレンズですが、冒険的技術を駆使していたのですね。
by 足立sunny (2014-03-12 16:02) 

(た)

足立sunnyさん、ありがとうございます♪

35mm一眼レフは、初めの頃は50mmでの大口径化が難しかったそうで、少し長めの55mmや58mmのレンズが多いですね。トリウムレンズの採用も、そういう苦心のひとつだったのだろうと思います。もしかすると、蛍石などよりコストが低かったのかもしれませんね。

MC ROKKOR-PG 58mm F1.2をトリウムレンズとしているページは、日本語のウェブページではYahoo!知恵袋しか見つけられませんでした。2ちゃんの過去ログではトリウムレンズとする指摘のすぐ後に、ミノルタの人から聞いたとしてトリウムは添加されていない・コーティングの焼けだとする書き込みが付いていましたが、実測してみて、それがデタラメであることがはっきりしました。日本製レンズの情報は海外のウェブページの方が正確で詳しいことが非常に多いんですが、このレンズもそうでした。
by (た) (2014-03-12 17:57) 

yossy

(た)さんこんばん… 
Σ(・ω・ノ)ノ! って! (た)さん何やら凄い事をww

しかも「Super-Takumar 55mm F1.8」をお買いになられたんですかw
しかもしかもw エアカウンターまでww

やはりこのタクマーは2.64µSv/h出ているのですか^^;
でもやっぱり驚きはROKKOR-PG 58mm F1.2ですね! !
6.53µSv/h… 凄い・・
きっとメーカーは過去にそんな材料を使った事を認めたくなかったのかも
しれませんね^^;
でも実際に写りはいいから素晴らしい技術であるとは思いますが…
とにかく勉強になりました♪

あれ? Camerapediaを見ていたら、該当キャノンのFD持っている気が(汗)
今度タクマーと一緒に鉛シートにくるんでおきますwww

そしていつもご紹介ありがとうございます! m(_ _)m
まだまだ寒い日が続きますので、お体には気をつけてお過ごし下さい^^

by yossy (2014-03-13 01:10) 

(た)

yossyさん、ありがとうございます♪

>しかもしかもw エアカウンターまでww
やっぱり、買うと決めたからには計ってみたくてw 上位機種にシンチレーター式のEXもありましたが2万円近くて、そっちは諦めましたw

>やはりこのタクマーは2.64µSv/h出ているのですか^^;
結構出てますね。シリアルが近くて既に実測されているものと大きくは違っていない数字が出たので、この数値は信頼できるんじゃないかと思います。

>でもやっぱり驚きはROKKOR-PG 58mm F1.2ですね! !
>6.53µSv/h… 凄い・・
測定器を当てた途端に予想外の数字を見ることになって驚きました。高いといわれるSuper-Takumar 50mm F1.4とほぼ同じ値が出てますね。このレンズに採用された新種の硝材とコーティングの相性が悪かったので黄変していると言われていて、それを信じていたので、これには大いに驚きました。「新種の硝材」どころかトリウムレンズだったとはw

>きっとメーカーは過去にそんな材料を使った事を認めたくなかったのかも
そうかもしれないですが、だとすると文部科学省の調査にはどう返答されていたのか、それもちょっと興味ありますね。
古本も見つからないので内容を確認してないんですが、コーティング原因説はどうもクラシックカメラ専科No.12「ミノルタカメラのすべて」が出典ではないかという気がします。権威の認められた出版物の内容はメーカーサイドの人たちでさえ信用してしまうことがあるので、これが錯誤を招いた可能性も捨てきれないです。専門書籍もあまり信用できないなと、今回の実測で感じました。

>Camerapediaを見ていたら、該当キャノンのFD持っている気が(汗)
お持ちですか! 今となっては貴重な逸品なので、大切にして下さい(^^)

今回少しググってみた範囲でのことではありますが、日本語ウェブページでは軒並みアトムレンズは1977年までとされているんですが、 Camerapedia記載のレンズの中には1979年春時点でまだ現役製品としてカタログに記載されていたものがいくつかあるんですよね、キヤノンFD 55mm F1.2 S.S.C.アスフェリカルとか、コニカ ヘキサノンAR 57mm F1.2とか。調べてみたら、ヘキサノンAR 57mm F1.2は1983年以降も販売が継続されていたようです。

>そしていつもご紹介ありがとうございます! m(_ _)m
こちらこそ、いつも楽しく拝見させて頂いてありがとうございます! それに今回は僕もすごく勉強になりました。
お気遣いもありがとうございます。
yossyさんもお忙しそうですが、どうぞお身体にお気を付け下さい。

by (た) (2014-03-13 14:16) 

yossy

お忙しい所、お詳しいお返事ありがとうございます! (><

アトムレンズにも色々な歴史があるのですね^^
こちらこそとても勉強になりました♪

昨日もハードオフに行ったら、黄変している某レンズがありました!
とりあえず手は出しませんでしたが…w


by yossy (2014-03-16 00:43) 

(た)

yossyさん、ありがとうございます♪

>アトムレンズにも色々な歴史があるのですね^^
見てみると、銘玉といわれるレンズが多いですね。ただ、富岡の一部の有名なレンズとメーカーがきちんとアナウンスしたタクマー以外は、アトムレンズとはあまり認識されてなさそうですね。アトムレンズはおそらくもっとたくさんありそうに思います。

>昨日もハードオフに行ったら、黄変している某レンズがありました!
黄色いレンズを見ると、ちょっと計ってみたくなりますね(^^)
僕も昨日ハードオフに行ったら、キヤノンEX Autoという入門機的な一眼レフがジャンクに転がってたんですが、このカメラの「キヤノンEX 50mm F1.8」が見事に黄色くて、放射線もかなり期待できそうでした。でも買わなかったんですが(^^;

by (た) (2014-03-16 08:19) 

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